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この場所が少しだけ人生を変えるかもしれない

コスメキッチンのショップスタッフとして働いた3年間、毎日たくさんのお客様と会話をした。 たとえそれが初対面でも、まだ数回しか会ったことのない方でも、それが立ち話であっても、こんなにも深くて心が繋がる関係になれるなんて初めは思ってもいなかった。

父娘の絆をつなぐ場所
週に1~2回は必ずご来店されSHIGETAの製品をエッセンシャルオイル中心にほぼ全種類買いそろえてくださるお客様がいらっしゃった。毎回2人で大好きなオーガニックトークに花が咲いていたのだけれど、ある時ふと思った。
「SHIGETAの製品、もう全種類に近いくらい揃ったのでは?」
と、聞いてみるとお客様が少し寂しそうな表情になる。
「実は父が末期ガンで余命わずかなんです。きっと身体も痛んだりしているんだと思うけれど、このオイルを日によって選んで、マッサージしてあげると父がとても気持ちよさそうにしてくれて。看護婦さんにお世話をしてもらうときに、いつまでもいい香りの父親でいてほしくて…」 その瞬間、ショップスタッフのわたしが踏み入ったことを聞いてしまったと思ったけれど、 その日からもお客様はお店にいらした際にお父様のお話をしてくださった。
いつのまにかご挨拶は「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは!」になり、その瞬間はお店ではなく「家」になったかのようだった。最近あまりお店に来られなくなったなぁと 感じた3週間ほどの期間を経て、少し久しぶりにお会いできた。その方のツヤツヤのお肌はいつものままだったけど、いつものキラキラした目は少し光が小さく見えた。
「父親が亡くなりました」
なんて声をかけたらいいかわからなくて…本当になにも言葉が出てこなかった。
「最後の最後まで傍にいることができたから…それが本当に良かったと思っています」
背筋をピンと伸ばして私の目を見つめていたお客様の目に涙が溢れた。
私も泣いていた。一度もお会いしたことがなくても、会話の中で確かに生きていた お父様が見える。私が商品の説明をして買っていただいたオイルは、お父様の人生の最後のときにも嗅覚を通して自然の中にいるような幸福感を届けられたかもしれない。
私がお勧めした商品は確かにお客様の人生の一部になっていた。

ピュアな心が色付く場所
ある日、高校生の男の子3人組がお店に入ってきた。
これはコスメキッチンではまだまだ珍しい光景で、男性はきっと女性が多いこのお店にさぞかし入りづらいのだと思うと、それでも入ってきてくださる=女性へのギフトをお探しなのかも!と嬉しい気持ちになる。3人のうち1人が「コイツが彼女にプレゼント探してるんスけど、お姉さんなんかお勧めありますか?」とニヤニヤしながら声をかけてくれた。
その隣で少し照れくさそうにモジモジしている男の子。…あ。この子が当人ね。なんて可愛らしいんだろう!とちょっとこちらもニコニコしながら聞いた。
「ご予算はどのくらいでお考えですか?」
「…5千円くらいで」
高校生にとっての貴重な5千円をお預かりする緊張感。
10代のお肌のコンディションは様々だからお顔のスキンケアにしないほうがいいかな、いい香りがするボディケアにしようかな、そんなことを考えながら、私自身も愛用していたジョヴァンニのチョコレートボディスクラブ&ラズベリーの香りのボディローションを選んだ。
「それにします」と言ってくれる男の子。
「俺も彼女できたら買いに来ます!」と言ってくれる隣の男の子。
私こそありがとう。なんだか身体に暖かくて心地よいものが流れる感覚。
彼が緊張しながらも女性だらけのお店に入ってお買い物をしてくれたのは、まぎれもなく貴方のことが大切だからだと思う。そんなことを考えながらプレゼントを受け取る彼女をイメージして、丁寧に箱に入れてリボンをかけた。

ビープル誕生
それは今から3年前。私は本社に異動することになった。
ミッションは「コスメキッチンの店舗から生まれた新業態の店舗としてフードも取り揃えたお店をつくる」こと。ボスとパスタを食べながらのミーティングで「例えばマルシェみたいな賑やかなお店とかね~」と言われたことを鮮明に覚えている。
とても大きなプロジェクトで、今思えばもう少し不安になってもおかしくなかったかもしれないけれど、むしろ何もわからないのが良かったのかもしれない。

化粧品だけだとどうしてもそこに興味を持つ女性のためだけのお店になる。それは大切だけれど、もっともっと気軽に、年齢も、性別も、ライフスタイルも問わず100円から始められる オーガニック製品があったら…
ドリンク1本でも気軽に買え、フードもたくさん取り揃えた、身体の内側からも美しさと健康を叶えるラインナップのお店ができたら…
「BIO」と「People」をかけあわせた造語でオーガニックな ライフスタイルを送る人を表現した「Biople(ビープル)」を思いつき、その店舗の名前は「Biople(ビープル) by CosmeKitchen」に決まった。
準備期間は5ヶ月間。
スタッフの制服はオーガニックコットンのTシャツにカーキのスカートに決定。
ラッピングはロゴ入りの袋や白いギフトボックス、それにかけるサテンのリボンを2色。
お店は白が基調のすっきりした内装に。パンフレットやホームページも作り、 そして何より大切なのは初めて取り扱う分野、オーガニック・ナチュラルのフードを探すこと。 毎日探し続けたオーガニック&ナチュラルの美味しいフードやインナーケアとの出会いはとにかく私をワクワクさせてくれた。
それはそれはあっという間に5ヶ月が過ぎ、いよいよ8月31日。
小田原ラスカ2Fに1号店となるお店がオープンした。
その後3年間で天神、荻窪、博多、京都、横浜、町田、新宿、大宮、金沢に。
この2016年秋にはさらに2店舗、東京・錦糸町、大阪・なんばにオープン。
ビープルの3年間を支えてくださったお客様は約85万人になっていた。

私たちはこの場所で、ただ商品を売るだけではなく、 人生に入り込む瞬間をいつも実感している。 お父さんへの愛情に香りの記憶を添え、10代の恋の記憶にギフトを添えたように。 今でも全国の「Biople(ビープル) by CosmeKitchen」では 様々な出会いとストーリーが生まれている。

Biople by CosmeKitchen Director

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